ケーススタディ 「ノーミドル・リトリート<タテ切り・チャレンジ」

考察

先日行われたEFLカップ・マンチェスターシティvsブレントフォードのサヴィーニョのゴールシーンからディフェンスのケーススタディです。

通常時におけるディフェンスのセオリーはワンサイドカット(ディレクション)はマストで行い、なおかつノーミドルディフェンス(=カットインを防ぐ)が最善のディフェンス方法であると考えています。
このシーンではサヴィーニョに対峙する相手ディフェンダーはややポジショニングが甘いものの、結果としてワンサイドカット、ノーミドルディフェンスによるタテ誘導を行うことができています。(その後の2人目のディフェンダーのスライディングでのシュートブロックによって、ディフレクションからゴールになった部分は一旦、横に置いておきます。)
しかし、このシーンにおいてはディフェンダーがボールにチャレンジし、ボール奪取のアクションをするべきシーンであったと思います。
動画冒頭(1:45)のシーンでは、ボール周辺の双方の陣形を確認してみるとディフェンダーが4人に対し、オフェンスが3人とディフェンス側が1人数的優位となっています。
つまり、ボールホルダーに対峙するディフェンダーは仮に抜かれたとしても、なお同数で対応することができます。
さらに、サヴィーニョは相手に正対していく際に、やや内側に入り込みすぎているため、ボールとゴールの間(インライン)にディフェンダーが入り込むことができている上、距離感的にもやや詰まり気味であります。
以上の2点、ディフェンダー側が数的優位であること、位置関係的に優位であることを踏まえて、ボールホルダーにチャンレジするべきシーンであり、リトリートに徹するのは次善セオリーであったと考えられます。サヴィーニョに対してタテ切り気味にボールにチャンレジすることで、ボール奪取の可能性が高いディフェンスが行えたと思います。

次に2人目のディフェンダーがスライディングしたシーンについてです。
シュートに対して、体を投げ出したり、スライディングすることはサッカーにおいてよく見られるシーンでありますが、個人的にはシュートブロックは体を投げ出したり、スライディングするよりもスタンディングの状態で壁になることが重要であると思っています。
そもそもシュートのたびに大きなアクションをしていると簡単にシュートフェイントで剥がされてしまったり、まさにこのシーンのようにディフレクションを招くような不確実性を増す原因にもなってしまい、ディフェンス法として悪い癖にもなってしまいます。
シュートブロックも通常時のディフェンスと同じ文脈でワンサイドカットやディレクションを行うことが重要であると思います。つまり、シュートを完璧に自分1人が防ごうとするのではなく、コースの限定を行うことが重要だということです。

GKからするとニアとファーの二択があると、止められる可能性はグンと低くなってしまいますが、ファーを切るだけでもシュートを止められる可能性は高くなります。
特にこのシーンではサヴィーニョは相手に正対したのちに、定石通りタテに持ち出します。シュートレンジとしては距離も遠く厳しい角度であり、順足でのシュートなのでニアに打つにしてもファーに打つにしても、ストレート系低弾道シュートが濃厚です。もしくは、ニアのハイの可能性もありますが、距離的に驚異的なシュートになる可能性は低いです。
なのでスライディングではなく、スタンディングの状態で冷静にシュートを見極めながらファーを切るディンフェスを行えば、ディフレクションも防げた可能性が高かったと思います。

このシーンにおける問題の本質は、ディフレクションにつながった反射的なスライディングという結果を批判することではありません。
状況を問わず標準時の基本であるコースを切るというディレクションの意識をもってディフェンスが行われていなかった点にあります。
日常的にコースを切る守備を徹底していれば、確実なディフェンス技術が身につくだけでなく、経験則として冷静さも養われます。その結果、ゴール前のような緊張感の高い局面でも焦ることなく、確実な判断と対応が可能になります。
そして、そうした積み重ねが、焦燥感から生じる反射的なスライディングの改善にもつながっていくはずです。

まとめ

セオリー論について論じられる際に、よくある誤解としてその時の判断でセオリーを破って、チャレンジするべきだということが言われることがあります。
しかし、本記事の主張は状況に応じてセオリーを破って判断するべき時があるのではなく、その時の状況に応じて最善のセオリーは変化するものであるということです。
例えばワンサイドカットやノーミドルといった普遍的原則は多くのシチュエーションで最善のセオリーである場合が多いですが、このようなディフェンス側優位の状況(ハマり)である場合には「ノーミドル」<「ボール奪取」のように最善セオリーのシフトが起こります。
これはつまりセオリーを破ってそれを上回るプレーをするべきであるのではなく、状況が整っている時には制約されているプレーの上限が緩和されるということです。その結果としてノーミドル・リトリートではなく、タテ切り・チャレンジが行えた場面でありました。
ディフェンスの能力が測られる際には球際、デュエル、インターセプトなどの指標で判断されることが多いですが、本来、ディフェンス能力の核であるディフェンスインテリジェンスというのはその時の状況を的確に認識し、最善のディフェンス方法を行える能力であると思います。
そうしたフィジカル的な能力やアクションというのはあくまで必要条件でしかないということです。
フィジカル的なアクションを目的にしてしまうと、本来身につけるべきディフェンス能力を身につけることができません。
こうした状況把握やセオリーの理解が再現性をもってディフェンス能力を向上させられる唯一の手段であると思います。

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