今回は「タイトディフェンス」についての考察です。
まずはアーセナル時代の冨安健洋のディフェンスをご覧ください。
タイトディフェンス
タイトディフェンスとは相手に対してピッタリとプレス・マークを行うディフェンスと定義しています。
サッカーにおけるディフェンスセオリーは状況や戦術において変わってくるものですが、今回の考察は通常時における最善のものと仮定して行っていきます。
ボール周辺あるいは全体が“ハマっている”状況（守備側優位時）ではボールホルダーに対して、プレスを行うことで奪取を狙う、制限をかける目的でタイトディフェンスを行うことは正しいプレーとなります。
しかし、そうではなくボールホルダーに自由がある状況（守備側劣位時）でのタイトディフェンスは状況にそぐわないディフェンス法になってしまいます。
上記の一つの目のシーンでは、ボールホルダーが前を向き自由に動ける状態であるにも関わらず、プレスが相手との距離感が近すぎてフェイントで簡単に重心が崩され、前進を許してしまっています。
そのあとにもボールに食いつくように、二度追い、三度追いとプレスをかけていくシーンでもタイトディフェンスを繰り返しており冨安のディフェンス思考がタイトディフェンスがベースとなっていることがお分かりいただけるかと思います。（守備意識が高いという点は素晴らしいですが）
二つ目のシーンでは、ドリブルで向かってくる相手に対して直線的かつ至近距離であたりに行っているため、その逆を突かれるようにすんなりとカットイン方向への侵入を許してしまっています。
本来、ディフェンスというのは第一には相手ボールホルダーに抜かれないことを念頭に制限をかけること、そしてその上で状況的にハマりそうなのであれば、タイトに寄せていきできれば奪取を狙うというのが通常のディフェンスセオリーであると思います。
そうではなく、ボールホルダーが自由に動ける状況でタイトに寄せると簡単にかわされたり、裏をとられることになってしまいます。
タイトディフェンスというのは、ハマった状態の時に結果として行われるプレスの方法であるということです。
上記の二つのシーンは前進を許したシーンをピックアップしており、ボールを引っかけたり、奪うことに成功している場面もありますが、抜かれるリスクが高いタイトディフェンスを常時行うことはディフェンスの標準的なセオリーに反するものであると思います。
冨安は身体能力面においてはプレミアリーグのディフェンダーの中でもトップクラスのものがありましたが、こうしたディフェンス技術そのものは人につきすぎる傾向が強かった印象です。
インラインディフェンス
では、どのようなディフェンス法が望ましいか次のカルバハルのプレーをご覧ください。
（グリーリッシュに対峙する2番がカルバハル）
相手ボールホルダーに抜かれないことを第一としたディフェンスが徹底されています。
インライン上（ボールホルダーとゴールの間）から外れないようにするため、ほどよい距離感を保ちながらマークを行っています。
相手に対してタイトにつく場面というのは、あくまでボール周辺の状況がハマりの時に結果として行われるべきディフェンス法であり、そうではなくボールホルダーが自由にドリブルをできる際にはこのように抜かれないようにしつつ、制限をかけることがセオリーであると思います。
ちなみにカルバハルはワンサイドカットを行うディレクションディフェンス（方向づけ）は行っていませんが、組織的に守るゾーンディフェンスよりも個人で守るマンマーク的な傾向が強い現在のサッカー界では主流の守り方の一つであると言っていいと思います。
ただ、個人的にはワンサイドカットを行うディレクションディフェンスが恐らく最善のディフェンス法であると考えています。
そして、そのようなディフェンスを行っているのがファン・ダイクです。
ワンサイドカットディフェンス
ファン・ダイクも抜かれないことを第一にしつつ、ゴールに近づいていくにつれてスペースが狭まりボールホルダーに制限がかかるのでそのタイミングで、距離を詰めてタイトに寄せていることがお分かりいただけるかと思います。
そして、カルバハルはインライン上から外れないことのみを意識したディフェンス法ですが、ファンダイクの場合は逆サイドへ抜かれないよう片側に誘導するワンサイドカットディフェンスで守っています。
サッカーのディフェンスは片側のサイドに追い込むワンサイドカットディフェンス（ノーミドル）が本来は最善のディフェンスセオリーであると思います。
しかし、現在のサッカー界においてはファン・ダイクなど一部の選手のみしか、このディフェンス法を行っていないようです。サッカーの場合、ディフェンスセオリーはそこまで突き詰めてチームで設定されておらず、選手個人の裁量（＝ディフェンスIQ）に委ねられているところが強いと思います。
恐らくの戦術との関係は
・（カルバハル） インラインディフェンス → マンマークディフェンス
・（ファン・ダイク） ワンサイドカット → ゾーンディフェンス
だと思われます。
そして、上位がゾーンディフェンスであり、マンマークディフェンスは状況次第で限定的に使われる戦術であるのが本来の位置付けだと思いますが、ゾーンディフェンスを仕込むほどの時間がないために、マンマークディフェンスが主流な戦術になっている印象です。
実際、上記のカルバハルの動画でもグリーリッシュのクロスやドリブルを止めることに苦労していますが、マンマークディフェンスはサッカーの原理的に相手を完全に抑えることができず、一人で守り切ろうとすることは不可能です。なので、ファン・ダイクのようにボールホルダーに制限をかけて味方との連携で組織的に守るゾーンディフェンスが最善のディフェンス法であると思います。
この辺りは今回の記事の主旨から逸れてしまうため、別の機会で詳しく取り上げようかと思います。
まとめ
カルバハルとファン・ダイクのディフェンスに共通することは、抜かれないことを第一に、ハマりの状態となり制限がかかるようになったらタイトディフェンスを行うということです。
今回はタイトディフェンスについての考察となりました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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