こちらの動画は今から2ヶ月ほど前になるチャンピオンズリーグ、第2節レアル・マドリードvsマルセイユのワンシーンです。
間が空いてしまいましたが、自分の中で現在のサッカー界におけるビルドアップ、CBのドリブルについて思考する上で、象徴的なシーンであったのでここで取り上げたいと思います。
スコアは0-0の状況でGKからボールを受けた左CBハイセンが自陣からボールを持ち上がり、前進をうかがう場面。
その直後、降りてきたギュレルにパスを出しますが、ギュレルのコントロールが甘くなり、相手に奪われてショートカウンターから失点を喫します。
ちなみにこの時の中継では、マルセイユのセレブレーションのあと、ハイセンをアップで写しており、ハイセンの責任を印象付けているようでした。
Xでもリアクションを見てみたところハイセンの責任論が目立っていた印象でした。
では、このシーンは本当にハイセンが悪かったのか?ハイセン“だけ”の責任だったのか?
ポイントを整理しながら検証していきたいと思います。
ポイント①そもそも「ハイセンのドリブル」は適切だったのか?
まずこのビルドアップの場面における「ハイセンのドリブル」は適切であったのか?というところから検証していきたいと思います。
下の場面はGKからハイセンがボールを受けた直後の場面です。
引用:https://youtu.be/vqETiHT5knk?si=7drObKf0K5cbJ05Y
マルセイユはボールに対してプレスをかけず、ミドルゾーンに構えておりレアル陣形もタテに間延びしたような状態になっています。
さらにハイセンから見て有力なパスコースがあるのかと言えば、どの選手も相手からインターセプトされそうな微妙なポジショニングであったり、ライン越えの前進を果たせないポジショニングとなっており、陣形全体として悪い陣形であると言えます。
陣形が間延びしていたり、有力なパスコースがない時に無理にパスをつけようとするとインターセプトされる原因になってしまいます。
なので、この場面におけるハイセンの前方へのドリブル自体は適切であったと考えられます。

タテ方向へのパスはいずれの味方もインターセプトされそうな微妙なポジショニングであり、RWのマスタントゥオーノも本来のポジショニングができておらずサイドチェンジも行えない。
CBへのバックパスも相手FWに寄せられそうな微妙なパスコース、ということでドリブルという選択をとることは理解できるシチュエーションです。
ビルドアップの際に、CBやボランチがドリブルで前進を行うことで「ライン越え」または周辺の相手ディフェンダーがボールホルダーに引きつけられることによって、結果として「周りの味方がフリーになる」効果があります。
このシーンで言えばハイセン自身が相手MFラインを越えるドリブルを行うか、相手ディフェンダーがプレスをかけてくれば、隣の味方がフリーになるということです。
ただし、この時に一つの注意点があります。それは相手FWラインorMFラインに対してドリブルを行う際は必ずロストしないためのパスコースの確保が必要不可欠です。
相手DFラインに対してドリブルを行う際には、当然味方が後方にいるため、たとえロストしたとしても即座に決定的なピンチを招くことはありませんが、相手FWライン、MFラインに対しドリブルを行いロストしてしまうと、決定的なピンチを招く可能性が高い危険なカウンターを食らうことになります。
したがって、相手FWライン、MFラインに対してドリブルを行う際は必ず安全なパスコースを確保の上で行うべきです。
これらのことを踏まえるとハイセンのドリブルというプレーの選択ではなく、ドリブルの質自体にやや課題があった面も否めません。

ドリブルの途中から相手CFからプレスバックを受ける格好となり、そこから逃げるように速度を上げて直線的にドリブルしてしまったことで、その先のギュレルとのパスシーンでやや詰まるような状態になってしまいました。
本来であれば相手ブロックに対して、真っ直ぐ垂直に前進すること自体は間違いではなく、むしろもっとも効率的な進路であるくらいです。
しかし前方に位置するギュレルが効果的なポジショニングをとることができず、ハイセンと被り気味になってしまっているため、窮屈なパスにもつながってしまいました。
先述の通りビルドアップ時におけるCBのドリブルはロストしないことが大原則であるため、必ずロストしないための選択を維持しながらドリブルの進路をとる必要があります。
つまり、相手CFがプレスバックをしかけてきて、なおかつギュレルのポジショニングが適切でないとなった時点で進路の変更(プレーセオリー選択の変更)を行い、相手の右SHの方へ向かっていくドリブル(パスのレシーバーもギュレル→LSBのカレーラスにシフト)を行うことができていたらベストであったと考えます。


そしてこちらは参考映像のアルティミラのプレーです。
このアルティミラのドリブル進路も垂直的な進路から、相手のプレスを受けてから左方向に進路の変更を行い、LSBの味方へのパスコースとライン越えのドリブルの選択肢をもった上で、結果としてライン越えのドリブルに成功しています。
ちなみに、このようにライン越えの正対に対してはドリブルの進路を切ってパスを出させることがディフェンス的に最善の選択肢となりますが、ディフェンスインテリジェンスが高度でない選手だと高確率でパスコースの方を見切り発車で切ってくる可能性が高く、案外ライン越えのドリブルが成功しやすいプレーシチュエーションでもあります。
この辺りはプレーの経験値が溜まってくるとディフェンスインテリジェンスも高まってくるため、あくまでトレンド的な認識で捉え、このプレーの原理的なメカニズム自体を理解することが重要であると思います。
特にオフェンス技術に関しては先天的な面が大きいのに対して、ディフェンス技術に関しては経験やインプットの量によって高まる能力でもあるので、まだ経験に乏しい若手選手相手にはドリブルが成功しやすいかもしれません。
もっともハイセン自体、昨季のボーンマス時代には5大リーグU21世代の中でもっとも「前進キャリー」(参照:https://www.afcb.co.uk/news/2025/may/29/huijsen-nominated-for-golden-boy-award/)を記録している選手であり、スペイン人のディフェンダーは割とこの辺りのビルドアップやドリブルのセオリーを理解している選手が多いです。ハイセンの場合も技術が不足していたり、セオリーの理解(サッカーの理解度)そのもののが不足していたというよりも、ギュレルのポジショニングとの兼ね合いで結果として、あのようなドリブル進路、プレーの選択になっただけなのかもしれません。
ポイント②ギュレルのポジショニング
続いては「ギュレルのポジショニング」の是非について考えていきたいと思います。
ギュレルは当初、バイタルエリアにポジショニングを行い、ハイセンが持つボールを前進させる上でもっとも有力な位置にいた選手であります。

本来であれば、バイタルエリアにとどまりハイセンのドリブルに合わせて少し角度をつけるだけでバイタルでボールを引き出せた可能性もありました。
しかし、ギュレルの意図としては引き出すことから低い位置でのキープを選択したのか、バイタルエリアからブロックの外へと降りてきます。

バイタルに留まってパスを受けようとするとインターセプトされる可能性があると判断して、降りて安全なキープを優先したのかもしれません。
この「留まって引き出すか」「降りて安全なキープを目指すか」については、あくまで前進できる時は前進をすることに越したことはないものの、瞬間的な判断の中でもしインターセプトを回避するためであったり、安全なポゼッションの継続のために降りるという判断をしたのであれば、その判断自体に誤りがあったわけではないと思います。
恐らくこの局面でもっとも重要だった点は、降りた後のポジショニングそのものにあったと思います。
ギュレルは「とりあえず受ける」ことを優先する形で降りてきており、ポジショナルプレーやポジショニングセオリーに基づいた動きというよりも、場当たり的にポジショニングを下げた印象を受けます。
つまり、場当たり的ではなく的確なポジショニングの必要性があったと言うことです。
このようなCBやボランチがライン越えのドリブルを行う際のオフザボールのポジショニングは、ドリブルと反対方向への動きと角度をつけるポジショニングが重要です。
次の動画はロドリのライン越えのドリブルシーンです。
画面右側にいるベルナルド・シウバのポジショニングにご注目ください。
ロドリのドリブルに合わせてベルナルド・シウバがタテに角度をつけている事がお分かりいただけるかと思います。
このようにドリブルと反対方向に動き角度をつけることで、結果としてボールホルダーがライン越えのドリブルを行わなかった場合にフリーでパスを受けることができるようになります。
ボールホルダーがラインを越えようとすることで相手が位置的にも重心的にもピン留めされ、その逆方向に位置する味方が完全なフリーとなります。

この図のように、逆方向へ推進性があり、角度をつけることによってハイセンからパスを受けた際に安全にボールホルダーになることができます。
このような状況が整って安全なハイセンのライン越えのドリブルまたはギュレルがパスを受ける、という選択肢を持つことができます。
このベルナルド・シウバのポジショニングを例にとり、ギュレルのポジショニングを見ると、ギュレルは足元で受けようとしてしまい、相手に近い位置でしかも静的な状態でパスを受ける格好になっています。
つまり、ポジショニングによって相手の推進性を断ち切ることができていない状況下でパスを受けてしまっているため、あのようなロストにつながっているのです。
動画を見ればこぼれたボールに対して、後ろから抜き去る相手RMのグリーンウッドに推進性で負けていることが確認できるかと思います。


問題の根本原因は、コントロールをミスしたことではなく、位置と推進性の差によって、相手に奪われてしまう状況をポジショニングによって作り出してしまっていることにあります。
ギュレルはレストディフェンス(攻撃時の予備ディフェンスポジショニング)を行いつつボールホルダーになる準備も行うべきでしたが、その状態を成立させるポジショニングができていませんでした。
仮にコントロールが大きくなったとしても、ポジショニングそのものがリスクを排除できていない危険な状態であったということです。
これはディフェンスにおけるチャレンジ&カバーと同様のことです。最終ラインの選手がプレスに出て行く場合、そのカバーを行う選手がいないと万が一プレスに出た選手がボールコントロールが安定できなかった場合、かっさらわれて即失点に繋がるような危険なカウンターを受けることになります。
ボールをうまくコントロールできた、できなかったことではなく陣形としてリスクを排除できていないことに問題があります。
それは守備のみならず、攻撃時にも同じことが言えます。
まとめ
今回は、レアルの失点がどのようなプロセスを経て発生したのかを掘り下げてきました。
サッカーの議論では、しばしば問題の根本原因には触れられないまま、プレーの表層的な現象だけが切り取られ、結果論的な批判が繰り返されがちです。
プレーセオリーやポジショニング、陣形の性質、そしてその瞬間のピッチ上の状況を一つひとつ分解していくことで、なぜその選択が生まれたのか、なぜその失点が避けられなかったのかが見えてきます。
こうした視点を持つことで、試合は単なる出来事の連続ではなく、因果の積み重ねとして捉えられるようになります。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。


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