ケインロール(0トップ)の機会損失と標準的な配置・ポジション論の重要性

考察

・ケインロール(0トップ)の機会損失

サッカー界では、その選手の自発的なプレーエリア、スタイルが一つのロールモデル、プレーセオリーとして確立されるケースが往々にしてあります。しかし、それらのロールモデル、プレーセオリーは果たして本当に機能的で合理的なセオリーと言えるのでしょうか?

例えば、ケインは抜群の決定力、両足での強烈なシュート、広いシュートレンジ、ミドルシュートとゴール前に関する能力をすべてハイレベルで備えた生粋のストライカーです。その一方で、ビルドアップやパス回しへの積極的な関与など、プレイメイク参加の意識も高く、いわゆる0トップ的な動きをとることで知られています。

CFは、そのチームの中で最も得点力に優れている選手が配置されることが一般的であり、CFの選手が本来いるべき中央の相手CB付近にポジションを取ることで、ゴール前でのプレー機会を最大化でき、その能力を最大限発揮できます。
CFの選手が降りてパス回しに参加すると、当然トレードオフでゴール前でのプレー機会の減少につながります。
それを補って余りある効果があるならいいのですが、果たして本当にそうでしょうか?

実際、トッテナム時代にもよく見られたのが、ケインが下がってボールを受け、サイドに展開したまでは良くても、その後に自らエリア内に入っていくタイミングが遅れ、クロスが彼以外の味方に向かってしまう場面です。
つまり、CFが「起点」になることで、「終点」としての本来の役割を果たせなくなっているケースが多々あるわけです。

このように、本来そのポジションを務める選手が流れの中で他の選手とポジション、役割が逆転してしまう「ロールのねじれ現象 」を自ら引き起こしており、その選手の能力が本来発揮すべき場所で活かされず、無駄になってしまっています。
CFはプレイメイクを味方に任せ、相手CB周辺でしっかりとポジショニングを行い、クロスやラストパスを受ける側に回ることで、ゴールの可能性が高まることは容易に想像できます。

選手の能力とポジションは、標準こそが最適です。自らその最適な状態を崩してしまうことは、本人にとってもチームにとっても得点の機会損失を引き起こしているのです。

・他にもある合理的ではない「○○ロール」

似たような話は、他のポジションでも見られます。
たとえば、トニ・クロースがレアル・マドリードで見せていた「クロースロール」もそのひとつです。
クロースが左サイド寄りの低い位置に下がり、LSBを上げて自分がボールを受けるスタイルでネット上ではクロースロールなどと呼ばれて注目されていました。

しかし、本来技術力に優れるMFの選手の能力は⁠、狭くプレッシャーが厳しい中央のエリアで発揮されることで、質の高いポゼッション、前進を図ることができ、チームが最も機能的になります。
そうしたMFの選手が低いサイドのエリアに逃げてプレーしてしまうと、トレードオフで中央でボールを触れる機会が減少しチームとしてのポゼッション力や質の高い前進回数が減少することになります。

低いエリアでは素直にDFの選手にビルドアップを任せ、技術力に優れるMFの選手は中央でプレーすることで、チームの機能的な攻撃を最大化できます。
加えてチームがロストしてカウンターを受けた際、ネガトラ時にLSBの位置で守備を行わなければならないこともマイナス要素の一つとして挙げられます。
クロースを始めボランチの選手は足が速くなく、オープンスペースでの対応やスピード勝負を苦手とする選手が少なくありません。本職のSBの選手が本来の低い位置にいればカウンター対応でも一定の守備力は担保できます。

このようにMFがそこに下がって関与することで、貴重な技術リソースが中央から引き剥がされてしまう上に守備での対応でもデメリットが出やすい。これもまた、構造的な損失と言えると思います。

・ポジションセオリーと心理面とのバランス

ここまではポジショニング面におけるセオリーの観点からの話でしたが、当然試合は人間が行うものでありますから選手の心理面なども蔑ろにすることはできません。

たとえポジションを守っていたとしても、チームの攻撃がなかなか上手くいかず、待っていてもなかなかパスが来ない、ボールを持てないとなると、当然選手心理として焦りやストレスを感じることになります。
そのような時にはボールに触れることを優先して、リズム感を取り戻すことも悪くない選択になります。

あくまで目的はその試合に勝つことであり、良いプレー、結果を出すことですから、時として戦術、原理原則的な合理性よりも心理面を満たす、解決するための時間、プレー関与があることも十分に立派な戦術であると思います。

ベースとしてはポジションのセオリーに忠実に動きつつ、そうした心理的な面での動きもある程度許容されるべきものだと思います。

・ポジションを容易に崩してしまう原因

このようなポジションの流動化、可変的な考え方がいとも簡単に行われてしまうのは様々な理由が考えられますが、選手はやはりどうしてもボールを受けたいと思う傾向にあるためボールサイドに寄ってしまいがちであることはあると思います。

もう一つには「数的有利/不利」への過剰な意識があることが一因として考えられます。
数的有利/不利について詳しく掘り下げていくと長くなってしまうため今回は割愛しますが、ビルドアップの際にDFライン近辺において、数的有利を作ろうとする必要はあまりないと思います。

数的同数であれば十分であり、上手くいかない場合に変化を起こすにしても、工夫の第一手としては降りて数的有利を作るよりも、同数で前進できないなら前方の選手のポジショニングが悪い場合がほとんどですから、そこの修正から入るべきです。

上手くいかないからと容易に自陣方向に人を注ぎ込んでしまうと、数的には後ろが重くなり、質的にも本来中央かつ前方の厳しいエリアでその技術力が発揮されるべき高度人材を前借りすることになるので、そのしわ寄せはのちに前方に来るため、効率的な解決方法ではないのです。

仮にマークのズレなどから前進やゴール前に至ることができたとしても、あくまでそれは繰り返して通用するような根本的な解決方法にはならず、根本的・持続的で再現性があるセオリーとはならないと思います。

前方のポジショニングの修正を行っても上手くいかない場合に、その次にMFや前線の選手が降りて、ビルドアップのサポートを行う解決方法が実践されても悪くないと思います。

・本稿の主張 標準的な配置が最も合理的である

ここまでの話をまとめると、やはり「標準的なポジション配置」というのは、長年の実践と理論の蓄積の中で洗練された“最適解”であり、それを崩すということはそこから割引になってしまうということです。

FWは前、MFの選手は中盤、DFの選手は後方、攻撃においてもネガトラのことを考えてもこの大原則はベースとして守ることがもっともチームが機能できる陣形であります。

解決方法としてのポジションの交換、変化は、それを踏まえた上で第一に標準的な配置をベースとした中で解決方法を行い、それでもダメなら次の一手として初めてポジションの入れ替えや可変などの選択肢が考えられるべきものであると思います。

ネット上ではサリーダ・ラ・ボルピアーナやアンカー落ちなどと言った⁠可変戦術も目にすることがありますが、あまりに最適解である標準的なポジション配置を蔑ろにし過ぎであると感じています。
ポジションや陣形を崩したりすることがそれだけデメリットがあるにも関わらず、簡単に手段として提示されすぎていると思います。

原則として⁠ベースは標準的、解決方法は原因特定を正確に、可変や流動化は必要最小限が基本であると思います。

・最後に

あくまで戦術や原則は試合に勝つためにチームを最大限機能的にするための手段であり、当然目的ではなく本当に試合に勝つための本質的な戦術、手段はよく見分ける必要があるかもしれません。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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